★猫丸しりいず第192回
 
◎ベートーヴェン:ロンド・ア・カプリッチョ ト長調 Op.129 「失くした小銭への怒り」
 
 仲道郁代(P)
(国内ARIOLA JAPAN BVCC34101)

 
先日新聞を読んでいたら、アンケートの結果として70%以上の人が「景気の回復」を実感出来ていないという記事が目についた。
 
実際、一握りの富裕層以外の一般庶民はそれこそ百円、十円単位で支出を切り詰め、日々の家計のやりくりに涙ぐましい努力を続けざるを得ないのが実態だろう。増税も控えているし、この状況がそう簡単に好転するようには思えない。
 
では「至高の芸術」を日夜追及していた我らが愛する大作曲家の皆々様は、そんな生臭い世界と無縁の境地にいたのかと言えば全くそんな事は無く、作曲家たちの伝記やエピソードを読めば、作曲に対する報酬が少なかったといって落胆したり激怒したり・・・という実に「セコイ」というか「人間臭い」オハナシに満ち溢れていて、思わずニヤリとさせられてしまう。
 
そこで「失くした小銭への怒り」。
 
「第9」や「荘厳ミサ」よりも後の作品番号が付いているが、これはベートーヴェンの死後に出版されたからで、晩年に作曲された訳ではなく、実際には20代に書かれた初期の作品であるらしい。「失くした小銭への怒り」というこの上なく小市民的な爆笑タイトルは、「皇帝」や「幽霊」同様に他の人が勝手につけたもので、ベートーヴェン自身の命名では無い。作曲者自らは、この曲を「奇想曲的ハンガリー風ロンド」と名付けている。曲名だけでピンと来なくても、実際に曲を聴けば「ああ、この曲か」と思われる方がきっと多いであろう軽快でどこかコミカルな作品だ。
 
私自身はこの曲を聴いてもあまり「小銭失くした当事者が怒り心頭」的な雰囲気は感じない。むしろ、小銭を落としてアタフタと部屋の片隅を引っ掻き回して探している人を、「オ~イ、大丈夫か~」と茶化しているような、多少意地悪な「外からの視線」を感じてしまう。
なぜよりによってこの曲にそんなタイトルが付いたのかという経緯は、諸説あってハッキリしないが、頑固者でカンシャク持ち、その上、お金にまつわるエピソードが豊富・・というベートーヴェンのキャラクターにも起因しているのでは・・・とは想像出来る。
 
中でもあの「第9交響曲」を巡っては、初演の時の収入が期待していたより全然少なくてガッカリしたとか、この曲を献呈した皇帝フリードリッヒ・ヴィルヘルム3世から返礼として贈られた指環が、鑑定したら「安物」だったと知って怒り狂ったとか(この手の逸話の常として、どこまでがホントの話なのかは不明)の「傑作エピソード」が多い。「返礼の指環」の一件はあまりのセコさに「ベートーヴェンさん、そういう問題じゃないでしょう」と声を掛けてしまいたくなる程だが、その一方で、「ああこういうノリの男だったから、余人の及ばないアグレッシブな名曲を多々遺せたのか」と親近感が湧いて来るのも事実。ともあれ、いじり甲斐のある男、それがベートーヴェン。
 
この曲には意外な程多くの録音があるが、最近聴いていいなと思ったのが仲道盤。5番~7番のソナタが入った盤の「オマケ」みたいな形で入っているので思い切り目立たない存在ではあるが。童顔で年齢不祥な雰囲気漂う仲道さんだが、実は私とほぼ同い年なので(失礼! 聞かなかった事にして下さい/笑)今や日本のピアノ界を背負うベテラン中軸選手。キャリアの蓄積を感じさせる丁寧ながらしっかりした演奏。なんだかんだ言ってもヤッパリこの曲、ベートーヴェンの名作だな、と思わせる名演ですよ。
 

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