★猫丸しりいず第191回
 
◎チャイコフスキー:交響曲第2番
 
クラウディオ・アバド指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
(DG/タワーレコード PROA129 ※廃盤)
 
新春早々、「唐突猫丸クイズ」を一発。
「キエフ」「オデッサ」「チェルノブイリ」。これらの街がある国は一体どこでしょうか?
 
エッ?「ソ連」? あの・・・・ 一体ソ連が消滅して何年たったと思ってるんですか。
「ロシア」? ウ~ン、ありがちな間違いですね・・・
正解は「ウクライナ」。
 
「元ソ連」の国々の中でも、バルト三国や中央アジアの国々が既に独自の存在感を放っているのに比べると、確かにウクライナという国はまだ「ソ連風」なイメージを引きずっているように感ずる。ヨーロッパとロシアの中間に位置する地理的な条件もあって、ソ連崩壊後もヨーロッパ側につくか、ロシア側につくかで永らく政治的な綱引きが続いており、最近もEUとの連合協定締結を見送った政権に抗議する大規模デモが首都キエフのど真ん中で発生し、世界中で大きく報道された事は記憶に新しい。
 
しかし、ウクライナという国の文化的な側面での存在感の大きさは、あまり知られてはいないが中々侮れない。例えば、旧ソ連エリア出身のピアニストの中で、ウクライナの生まれの人を列挙すると、ホロヴィッツ、リヒテル、ギレリス、グリンベルク、チェルカスキー等々、超豪華メンバー。文化遺産的な見所も多い上、日本国籍の人は短期の観光であればノービザで入国でき、ロシアのように面倒臭いビザ申請手続きも必要ない。もっと日本でも観光地として注目されても良いように思うが、残念ながらまだそうはなっていないようだ。余談だが、一般的にはロシア料理と認識されている「ボルシチ」も、実はウクライナが発祥である。
 
さて、ウクライナにちなんだクラシック音楽作品と言えば、何をおいてもチャイコフスキーの「交響曲第2番」。かつてのソ連時代、この曲は「小ロシア」というタイトルで知られていた。しかし、ソ連崩壊後、この「小ロシア」という呼称は蔑称である・・という見地から、今日では「ウクライナ」という愛称に替わっているようだ(ただ、「ウクライナ」という呼び名が定着しているようには思えないが)。
 
1872年、30代前半だったチャイコフスキーが書いた作品。終楽章にウクライナの民謡「鶴」が用いられている事がこの呼称を生んだようだが、作曲者自身による命名では無い。この曲、チャイコフスキーの作品にいつも付きまとう「どんよりどよどよ」感が稀薄で、彼の作品の中でも珍しい位、明快でパリッと乾いた感じに仕上がっている。ただ、現在普通に演奏されるのは、初演の10年近い後に作曲者が大きく改訂した版(彼は初稿を「未熟」と考え、出版を許さなかった)。初稿による録音はシャンドスから出ているサイモン指揮ロンドン響が唯一のものだが、第2楽章以外は現行(改訂)版と相当に違っている。端的に言って、初稿版は相当にクドイ。
 
中でも終楽章は現行版でも「鶴のテーマ狂喜乱舞」という感じのクドイ曲だが、初稿版はそれを更に「大盛り」にしたような感じ。個人的にはかなり「胸焼け」感が残る。シャンドス盤の演奏は実に正攻法なので、かえって「大盛り」感が助長される結果となってしまっている。この初稿版は例えば1970年代のモスクワ放送響をロジェストヴェンスキーやカヒッゼが振った演奏のように、ヤケッパチ気味のド迫力、コテコテな感じでやらないと真価が現れないのかもしれない(あの「銭湯で録ったのか」と疑いたくなるようなメロディアの強烈残響があれば尚OK)。
 
一般的な現行版には今やかなりの録音があるのだが、個人的には「これぞ決定盤!」と呼びたくなる演奏が見当たらない。そんな中でも気に入っているのはアバドが若き日(1968年)に珍しくもニュー・フィルハーモニア管と録音したもの。正直言って私はこの指揮者の熱心な聴き手では無いが、まだ彼が「駆け出し」の頃の1960~1970年代前半の録音には結構面白いものが多いと思う。この「2番」、実に明快で吹っ切れた演奏で、終楽章の驀進ぶりやオケのノリの良さが特に印象的。永らく入手困難だったが、2007年にタワーレコードの企画BOXで復活。アツモン&ウィーン響の「3番」やアーロノヴィチ&ロンドン響の「マンフレッド交響曲」といったマニア感涙の音源をも含んだ全集で、如何にもタワーさんらしい好企画だったが、残念ながら現在既に廃盤のようだ。
 
ちなみにこの「タワー全集」では2番は「小ロシア」というタイトルになっているし、国内で流通している品物を見ると、まだ「小ロシア」が多数派のようだ。やはり一度定着した愛称はそう簡単には変わらないのかも・・・。
ウクライナがEU側につくか、ロシア側につくか、今年2014年は大きな転機の年になるかも知れず、私は非常に注目している。
 
本年も吉祥寺クラシック館と「猫丸しりいず」を引き続きよろしくお願いします!