★猫丸しりいず第190回
 
◎オルフ:歌劇「賢い女」
 
 シュヴァルツコップ(S) フリック(B)他
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
(海外EMI 6876382)
 
ぱみゅぱみゅレボリューション/きゃりーぱみゅぱみゅ
(ワーナーミュージックジャパン WPCL11079)
 
大きな声では言えないが(いや、言っても良いのだが)、きゃりーぱみゅぱみゅが結構好きである。
 
とは言っても、正直なところ「アイドル」としての彼女には全然関心が無いし、彼女のステージを見たいとも思わない。私の好きなのは、専ら彼女の歌う「ウタ」である。
この上なくシンプルなつくり、一度聴いただけで覚えてしまうようなメロディ、コトバを「部品」や「記号」の如く自由自在に操った面白さ。民族音楽にも通じるような、単純で原始的だけどインパクト強烈なサウンドは中々侮れない。この特色はプロデューサーの中田ヤスタカの「戦略」でもあろうが、きゃりーの歌が世界各国で大ヒットしたのは、この「原始的なまでの分かりやすさとノリの良さ」のおかげだろう。「つけまつける」や「みんなのうた」は
「快作」の一言。さあ、そこのお父さん、「ハヤリモノ」と馬鹿にしないで、きゃりーの歌、一丁いかがですか? 案外ハマってしまうかもしれませんよ。
 
そう言えば、クラシック音楽界にもきゃりーの歌に酷似した特色を持つ大家が居るでは無いか。そう、その人はカール・オルフ(1895~1982)。
 
「カルミナ・ブラーナ」だけが突出して有名になってしまったため、他の優れた作品が全く無視されている・・という不憫なヒトだが、その「カルミナ」だって、クラシック・ファン以外にまで知られる程に人口に膾炙した有名作になったのはせいぜい21世紀に入ってからの事だが・・・。
 
彼の知られざる名作の代表格が、「カルミナ」の大ヒットの後の1943年に初演された作品「賢い女」。楽曲のノリは「カルミナ」と全く同じ世界なので、「カルミナ」が好きな方ならスンナリと楽しめるだろう。同じフレーズを何度も反復させる手法が多く用いられている事もあり、歌手にとっては確かなリズム感と息継ぎのテクニックが要求される、中々の難物と思われる。
ドイツの民話に題材を得て、オルフ自身が書いた台本を超簡略化してまとめると、こんな感じ。
 
『昔、あるところに一人の農夫がおったんだと。その農夫には一人の大層賢い娘がおって、その賢さが王様に気に入られ、妃に迎えられる事になった。ところがある時、あまりの賢さが災いしてか、些細な事から王様を激怒させてしまい、娘は哀れ追放される事になってしまった。でも王様もさすがに不憫に思ったか、最後に一番大切なものを箱に入れて持ち出して良い、と娘に言ったんだと。すると娘は王様の食事に眠り薬を混ぜて、王様を眠らせ、箱に入れて外に連れ出してしまったんだそうな。目が覚めた王様は、何で俺がこんなところにいるんだ!とビックリ仰天。すると娘はニッコリ笑ってこう言ったとさ。「あ~ら、王様は最後に一番大切なものを箱に入れて持って行って良い、とおっしゃったじゃありませんか」。この言葉にすっかり参ってしまった王様は、娘を再び妃に迎え入れ、2人は前にも増して仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。』(注:市原悦子か久米明のナレーションでお願いします)
 
イヤ~、凄いぞ!「賢い女」!!
こんな気の利いたセリフを女性から言われてグッと来ない男がいるだろうか。王様!幸せ者め!
若干「一休さんトンチ話 ドイツ版」みたいなテイストもある後味良いこの名作の代表盤が、ウォルター・レッグのプロデュースでサヴァリッシュ若き日の1956年に録音された大名盤。ステレオ移行の遅かったEMIには珍しく、50年代半ばの収録にもかかわらずステレオ録音である。覇気に満ちたサヴァリッシュの指揮はモチロンの事、主役の「賢い女」を演ずるシュワルツコップをはじめ、脇役にフリック、プライ、ナイトリンガーといった名歌手を揃えたキャストの充実ぶりが素晴らしい。月を盗んで自分たちの村に持ち帰ってしまった4人の若者たちのその後・・・という荒唐無稽な筋書きの、「賢い女」と並ぶオルフの愉快な隠れ名作オペラ「月」がカップリングされている事も実に嬉しい。N響でのサヴァリッシュの名演に幾度も生で接した私としては、この巨匠がN響のステージで「賢い女」や「月」をとり上げてくれていたら・・・という、ちょっと残念な気持ちも残る。
 
何とも早いもので、私が吉祥寺に着任して1年以上が経ち、この「猫丸」も2013年最後の回となった。今年もお世話になりました。そして来たる2014年も当吉祥寺クラシック館と「猫丸しりいず」を引き続きよろしくお願い申し上げます!