★猫丸しりいず第189回
 
◎メノッティ:ヴァイオリン協奏曲
 
トッシー・スピヴァコフスキー(Vn)
シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団
(国内RCA BVCC38467  ※限定盤)
 
◎Like A Virgin/マドンナ
(国内 ワーナーミュージック WPCR75120)

 
大きな声では言えないが(いや、言っても良いのだが)、実はマドンナが結構好きである。
 
彼女が大スターにのし上がった頃、私は大学生であったが、当時は彼女の歌をほとんどマトモに聴いていなかった。その挑発的なステージが物議を醸していた事もあり、ただの「流行りモノ」「色モノ」という偏見を持っていたからである。しかし、中年おぢさんになってから改めて彼女の歌を聴いて「オッと、コリャ中々凄いぞ」と感動してしまった。
 
「マテリアル・ガール」「ライク・ア・ヴァージン」「フーズ・ザット・ガール」等は中でも大名曲と思うが、とにかくそのパンチの効きカラッと乾いた爽快なサウンドは実に心地良い。そして、マドンナの歌は確かに挑発的でありながら、どことなく人懐っこい感じが漂い、何だかナポリタン・ソングでも聴いているかのような明るい昂揚感が湧いてくるのだ。
 
マドンナは本名をマドンナ・ルイーズ・チッコーネと言い、エンジニアだった彼女の父はイタリア系アメリカ人1世。彼女には「歌の国」イタリアの血が流れている訳であるのだが、マドンナのサウンドには「日常会話も歌になってしまう国」イタリアの雰囲気がそこはかと無く漂っているように私は思う。
 
「移民の国」アメリカには、実に様々な国をルーツとする才能が集結している。そんな中でマドンナ同様イタリア系の大物作曲家と言えるのがジャンカルロ・メノッティ(1911~2007)。イタリア北部ロンバルディア州の生まれで、若い頃渡米しフィラデルフィアのカーティス音楽院に学び、その後今でもクリスマスものオペラの定番となっているらしい「アマールと夜の訪問者」を筆頭に「アメリア舞踏会に行く」「電話」「領事」等々のヒット作を多く遺した人だが、それなりの知名度があるにも関わらず、彼の作品は日本ではお世辞にもポピュラーとは言えない。
 
そんな彼の名作の一つが、名匠エフレム・ジンバリストの委嘱によって1952年に書かれた「ヴァイオリン協奏曲」。アヴァンギャルドな要素が全く無い、極めて穏健で聴きやすい作品で、せめてバーバーの協奏曲位には演奏されて欲しいと思う隠れ名曲である。第1楽章が始まった途端、その親しみやすさ、と言うか「人懐っこさ」に強く惹きつけられる。そう、それはマドンナの曲の「そんなに畏まってないでさあ、アタシの歌を一緒に楽しんでよ!」という感触と共通した人懐こさ、心地良さなのだ。かと思うと第3楽章には太鼓とタンブリンの刻むリズムを伴う、異国情緒の伴った不思議な魅力を醸し出す部分もあり、この作曲家らしい器用なサービス精神にも「ヤルな、メノッティの旦那」と唸らされる。
 
数年前ミュンシュの音源がまとまって限定発売された時、長期間「幻」であったこの曲の名盤が復活したのには狂喜乱舞であった。この盤の「主役」はマルティヌーとピストンの「交響曲第6番」と言う、共に1955年のボストン響創立75周年記念の委嘱作で、チェコの演奏家とは全くノリの違うマルティヌーの猛演がお目当てで入手したのだが、「オマケ」?にこのメノッティが収録されているのに気付いた時はブッ飛んでしまった。
 
初演からまだ日の浅い1954年の録音であるこの音源、今や忘れられつつある名奏者、スピヴァコフスキー(1907~1998)の超貴重な録音の一つでもある。わずか19歳の若さでフルトヴェングラー時代のベルリン・フィルのコンサートマスターを務めた凄腕の持ち主。その後渡米し、クリーヴランド管のコンマスに就任したりジュリアード音楽院で教鞭をとったり・・と活躍したが録音は多くなく、代表盤の一つで名匠タウノ・ハンニカイネンと共演したシベリウスの協奏曲(エヴェレスト盤)も永らく入手困難で、中古市場で高値を呼んでいる程だ。曲の素晴らしさを最大限に引き出しているこの演奏も実にお見事。この名匠もこのまま「忘れ去られコース」を歩んでしまうのか・・・。