★猫丸しりいず第185回
 
◎プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」
 
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団
 
スコット(蝶々さん)ベルコンツィ(ピンカートン)ディ・スタジオ(スズキ)パネライ(シャープレス)他
 
(国内EMI TOCE9135~6/廃盤)
 
その後如何お過ごしですか? ピンカートンさん。
 
「その後」がどうも気になるお話、というのがあるが、私にとって「蝶々夫人」はその一つだ。自らの軽率な行動で蝶々さんを自刃に追いやったピンカートンは、その後ケイト夫人や子供と幸せに暮らしていけたのだろうか?
 
「私の事は気にせず幸せになって」と蝶々さんに言われたケイト夫人は、恐らく意気に感じて蝶々さんから預かった子供を立派に育てた事だろう。ただ、ピンカートンはどうだか・・・。その後もチャランポランな事ばかりやってなければ良いのだが・・・
 
大分前、当「猫丸」で「オペラ界ダメおやじ大賞」を「サロメ」のヘロデ王に進呈したい・・と申し上げた事があったが(詳しくはコチラを・・http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/895/)、「オペラ界ダメ男大賞」はもう文句無しにピンカートンであろう。第2位「カルメン」のドン・ホセに10ゲーム以上の大差を付け、プレーオフ無しで即決定という感じである。何しろこの男、領事シャープレスの再三の忠告にも耳を貸さずに蝶々さんの心に深い傷を負わせたばかりか、その事に気付いても狼狽するばかりで、自身で蝶々さんに謝罪する事も出来ずに逃げてしまう・・・というとんでもない奴なのだから。その「生き方」への姿勢に全く「ブレ」を感じさせない凛とした蝶々さんとの対比があまりに極端なため、尚更彼の「ダメ男」加減が目についてしまう。
 
しかし。「立派な男」でも何でもない凡人の私は、このピンカートンという男がどこか憎めない。大体「男」という生物は、普段はエラそうな事ばかり言っていながら、いざという時や想定外の緊急事態に直面するとすぐ腰砕けになって、ただの「パニックおやじ」と化してしまうケースが多い(ヘロデ王はその典型キャラだ)。むしろ、厳しい局面で、驚嘆するような肝っ玉の座った行動を女性が見せる・・という事は実社会でも度々目にする(あのパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんが直近の凄い実例。しかも彼女はまだ16歳である)。そういう意味では、ピンカートンは典型的に「男らしい」キャラとも言えるのでは。加えて、「反省してもすぐに忘れて同じ事を繰り返す」のも、男というしょうもない生物の特色。その点でもピンカートンという男には危険信号点滅である。一時は呵責の念に打ちひしがれても、すぐにその痛みを忘れケイトさんに迷惑ばかりかけているのでは・・・。心配で仕方が無い。オ~イ、ピンカートン。今度こそ立派な男になって、ケイトさんや子供を幸せにするんだ。しっかりやれよ! エッ?「人に説教する前に、自分の事を心配しろ」だって?痛い所を突かれたな・・・・。
 
さて「蝶々夫人」の名演として忘れがたいのが、バルビローリが1966年に録音した盤。情感溢れる指揮や、主役の2人の素晴らしさ(特にベルゴンツィの美声!)もモチロンの事、脇役陣の充実ぶりが実に良い。「蝶々夫人」は、主役の2人が良くても、シャープレス、スズキ、ゴロー等の脇役がヘナチョコだと何とも展開に締まりが無くなってしまうのだが、この盤はその点が万全なのだ。中でも名脇役スターと言いたい、私が贔屓にしているピエロ・デ・パルマ演ずるゴローが最高で、「待ってました、パルマ選手!」と叫びたい位である。
ただ、この名盤も今や安定供給されているとは言えない状態。前回とりあげた「ベーレントのアランフェス」同様、「自然消滅」させるにはあまりに惜しい名演だ。