★猫丸しりいず第184回
 
◎ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
◎カステルヌオーヴォ=テデスコ:ギター協奏曲第1番 
ジークフリート・ベーレント(G)
 
ラインハルト・ペータース指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(豪DG/ELOQUENCE 457306-2)

 
前々回シェイナの「スラヴ舞曲」をとりあげた際、「本場ものには外様には敵わない世界がある」と言った舌の根も乾かぬうちに矛盾するような事を言ってしまうのだが、「本場もの」では無いのにとてつもない名演が発生してしまう・・・事があるのも音楽の面白いところだ。
 
高校生の時、「アランフェス協奏曲」のレコードを買おうと思い立った時の事。当時の貧弱な可処分所得では、おいそれと2,500円以上もするレギュラー盤に手を出す事が出来ず、必然的に廉価盤からチョイスする事となった。レコード屋で色々と品物を漁っていたら、当時グラモフォンの廉価盤で出ていたドイツのギタリスト、ベーレントの盤が目についた。当時からヲタク&穴狙いの症状がハッキリ出ていた私は、「ソリストもオケもドイツで固めたアランフェスって一体・・・」という妙な興味が湧いてきて、その盤を衝動買いしてしまった(金1,300円也)。まあ魔が差した(笑)という事か。
 
ところが。この盤を自宅で聴いてブッ飛んだ。冒頭の印象的なギター・ソロ。これがアッと驚く快速テンポ。フラメンコか!と叫びたくなった次の瞬間、オーケストラが奏でる最初のテーマ。これが鮮烈そのもの! 獲れたての鮮魚がピーンと飛び跳ねるようなイキの良さ! 全曲を20分弱という速さでスッ飛ばすこの演奏、驚くべき名演奏だったのである。
 
快速にも関わらず寸分狂いの無い、しかもニュアンス充分の演奏を聴かせるベーレントには全く舌を巻いてしまうが、バックのオケも本当に凄い。元々この「アランフェス」はプーランクが「無駄な音が全く無い」と絶賛したように非常にスリムな編成で書かれている分、オケの力量が剝き出しにされてしまうのだが、さすがベルリン・フィル。随所に出てくる木管やチェロのソロが、その度に「おお!」を身を乗り出してしまう程の素晴らしさなのだ(もし私にベルリン・フィルの名盤を5点選べ!という命題が下ったとしたら、数あるカラヤンとの名盤と並んでこの盤は必ず入れてしまうだろうと思う)。あたかもアジアのヒップなリゾートホテルの如く、カジュアルな楽しさとキッチリした折り目正しさのバランスがこの上なく絶妙なのである。これを聴いたが最後、私は他の「アランフェス」がどれも生ぬるくて聴く気がしなくなってしまった程だ。
 
ベーレント(1933~1990)はベルリン出身。ピアニストとしてスタートするも、ギターの魅力に憑りつかれてギタリストに転身し、更には作曲家、指揮者としても活躍したという多芸多才な変わり種。昭和天皇の前で演奏したり、日本がネタの作品を作ったり・・と、実は日本とも縁のある人だったらしい。
 
1965年録音のこの名盤、カップリングのカステルヌオーヴォ=テデスコの名協奏曲も「アランフェス」と同じ方向の目の覚めるような名演なのだが、
ずっと日陰者の地位に甘んじている。今回ご紹介の豪ELOQUENCEの盤もかなり前に出たもので、今日でも容易に入手できるのかは定かでは無いし、今後も表舞台に立つ事はほとんど期待出来ない存在だろう。
 
でもこの盤、「アランフェス」が好きな方でこの録音を聴いた事が無ければそれは大損!と断言したい名演だけに、このまま自然消滅・・というのは余りにも惜しい気がする。マイナーながらシブい名演、名匠の宝庫だったあの頃の廉価盤ワールド。今や廉価盤もメジャー音源が席捲してしまっている状況下、埋もれたままになってしまう名演奏が今後も増えてしまうのだろうか・・・・・