★猫丸しりいず第179回
 
◎カントルーブ:オーヴェルニュの歌
 
 ヴィクトリア・デ・ロス・アンへレス(S)
 ジャン=ピエール・ジャッキャ指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団
(海外EMI  66993)
 
◎アーン:エステ家のベアトリーチェの舞踏会
  フォーレ:パヴァーヌ(合唱付) 他
 
 ジャン=ピエール・ジャッキャ指揮 パリ管弦楽団
(仏EMI 7476472/廃盤)

 
「フランス・パテ 裏三羽烏」の最後を飾るその人は、フランスの指揮者、ジャン=ピエール・ジャッキャ(1935~1986)。
 
この人は今日、名ソプラノのロス・アンへレスの代表的名盤「オーヴェルニュの歌」の伴奏指揮者として、辛うじて記憶されているに過ぎない。が、この「オーヴェルニュの歌」で、彼はラムルー管のいかにもかつてのフランスのオケらしい鄙びた音色を上手く活かして、センス充分かつ緩急自在の名伴奏ぶりを聴かせる。如何にロス・アンへレスの名唱があろうと、この名伴奏が無かったら、この盤がここまで不朽の評価を得る事にはならなかったのでは・・と思う程だ。
 
彼はパリ管弦楽団の創設時に、その副指揮者を務めた人。小澤征爾と同い年なので、フランスの威信をかけた楽団の副指揮者に30歳代前半の若さで起用されたという訳だ。その事は彼の非凡な才能の裏付けになると思われるのだが、そんな人にもかかわらず、彼に関する情報は余りに少ない。
 
ヴェルサイユに生まれ、パリ管の後はアイスランド交響楽団の主席指揮者を務めたが、不幸にも51歳の若さで交通事故で亡くなってしまった・・という事位しかわからない有様なのである。録音はパリ管の創設時から1970年代前半にかけてパテに残した数点と、少数のアイスランド響との共演盤にほぼ限られており、しかもそのほとんどは残念ながら現在入手困難である。かなり前に豪ABC放送の60周年記念CD-BOXを入手した時、ジャッキャがシドニー響を振ったデュリュフレの「3つの舞曲」の録音が含まれていたのに驚いた記憶があるが、オーストラリアにも定期的に客演していたのだろうか。
 
彼がパリ管を振ってパテに残した録音は、ルーセルの管弦楽曲集やメサジェのバレエ「二羽の鳩」「イゾリーヌ」、そして今回ご紹介のアーン(オリジナルLPはメサジェとのカップリング)やフランス管弦楽名曲集など多くは無いが、いずれも捨てがたい味わいの名演揃いだ。中でも面白いのが、レイナルド・アーン(1875~1947)の珍曲。ベネズエラ出身でフランスに帰化した作曲家アーンは歌曲の作曲家というイメージが強いが、「エステ家のベアトリーチェの舞踏会」は管楽合奏とピアノと2台のハープというユニークな編成で書かれた作品。この曲、実に典雅かつオシャレな「おフランス」風味に溢れた素敵な作品で、パリ管の管楽器の名手たちが惚れ惚れするような美音、美演を聴かせてくれる。この曲の他、ベルリオーズ編曲の「ラ・マルセイエーズ」や「狂詩曲スペイン」「牧神の午後への前奏曲」「魔法使いの弟子」「死の舞踏」等々のフランス管弦楽作品の「鉄板の名作」が収録されている。
 
これらの曲の演奏全てに通じる印象は「颯爽として粋」の一言に尽きる。
私は「本場もの至上主義」では全然無いのだが、こういう演奏を聴いてしまうと、まさに「母国語で喋ってます」という感じの自然体の名演に「やっぱりフランス人にはかなわねえや」とつい感じてしまうのだ。ジャッキャという指揮者の短い輝きを刻んだ名録音の数々が、前述のように今日ほぼ入手困難な状態なのは残念。いや、彼の録音ばかりでなく、パリ管が創設時から1974年までに様々な指揮者と共演しパテに残した多くの名盤が、ミュンシュ、マルティノン等のごく一部の有名音源以外ほとんど今日入手困難なのは、それ以上に残念だ。
 
過去に蓄積された膨大な巨匠たちの音源だけでも市場が溢れ返っている現在、「隠れ名匠」的な演奏家たちの音源はますますその「居場所」を失い、入手が難しくなっていくのだろう。そんな時こそ我々中古ショップの出番。さあ皆さんも隠れ名盤探訪のために、今すぐ中古ショップに走りましょう!! と、最後に宣伝(笑)。