★猫丸しりいず第178回
 
◎シャブリエ:楽しい行進曲、田園組曲、歌劇「いやいやながらの王様」からの2曲 他
                        (国内EMI TOCE3458 廃盤)
 
◎ピエルネ:「シダリーズと牧羊神」第1&第2組曲、ラムンチョ序曲
                        (国内EMI TOCE9818 廃盤)
 
 ジャン=バティスト・マリ指揮 パリ国立歌劇場管弦楽団
 
 
 
ポール・シュトラウスに続く「フランス・パテ・裏三羽烏」。その人の名はジャン=バティスト・マリ。
 
「指揮者の当たり年」1912年生まれのこの名匠、メジャーな存在の人では無いが、私と同世代以上の日本のクラシック・ファンの方々には意外に馴染みのある名前かもしれない。と言うのも、彼は私が中学生~大学生位の時期にかけて、東京フィルをはじめとする日本のオーケストラに何度も客演しているのだ。だから、彼のステージに接した方も実は結構いるのでは無いか。私は残念ながら彼の実演を聴く機会を持てず、それを後悔している。
 
当時フランスが支配していたアルジェリアに生まれ、当地のオーケストラで奏者として活動した後、第2次大戦の終結後から指揮者としての活動を本格化させたという人。ただ、若い頃のアルジェリアでの経歴には、やっていた楽器がチェロだったり、テューバだったり・・・と色んな話があって真相はよくわからない。もし、テューバ奏者出身とすれば、指揮者としてはかなりの変わり種である。
 
マルケヴィッチの後任としてラムルー管の指揮者を長年務めるなど、中堅として活躍した彼だが、主要な録音は1976~7年にかけての仏パテへのものに集中している。しかも、パリのオペラ座のオケというメジャーな割には録音の少なかった楽団との顔合わせになっていることもオタク魂に火を付けるに充分。そして、この録音が残された事は、マリにとっても、クラシック・リスナーにとっても誠に幸運な出来事であった。何しろ選曲が絶妙。今でも代表的名盤として繰り返し再発されているドリーブの「コッペリア」「シルヴィア」、そして今回ご紹介のシャブリエとピエルネという、「まさにこのコンビで聴きたかった!」という曲目ばかりである。
 
マリという指揮者は「独裁型」「統制型」では無く、楽員にノビノビと演奏させるタイプだったようだ(マルケヴィッチ退任後のラムルー管が今日に至るまで歯牙にもかけられない存在になってしまったのは、マリのユルイ統治に問題があったから・・という話も聞いた事がある)。一方、オペラ座のオケは飛び切りの名手が多いが、「軍隊的にキッチリ揃った仕事をする」などという気の無い、世界屈指の「暴れ馬」楽団らしい。そんな彼らの特色が、これらの録音では最良の形で生かされている。「気の置けない大将と一緒にワイワイ楽しくやってます!!」という感じで、音楽に窮屈なところが全く無く、全編はち切れるような生命力に溢れているのだ。
 
シャブリエの「楽しい行進曲」や、「いやいやながらの王様」の「ポーランドの祭り」、ピエルネの「シダリーズと牧羊神」の「牧羊神の学校」などは、まさに「こうでなくっちゃ!」と叫びたくなってしまう程のカラフルな名演奏。「暴れ馬に暴れさせておきながら、自分は決して落馬しない」という感じのマリの手綱さばきが実にお見事である。管楽器を中心にいかにもフランス的な響きを立てるオケの音色も最高だ。ただ、こういうスタイルの演奏が、例えばラヴェルとかドビュッシーをやって同様に成功するか・・と言えば、ちょっと微妙なところ。だから尚更、ドリーブ、シャブリエ、ピエルネという最適のラインナップをこのコンビに委ねた仏パテのスタッフの眼力には、心から敬意を表したい。
 
しかし、こんな大名盤が揃いも揃って長年入手困難とは・・・。EMIの中では「無敵」の存在と言える「コッペリア」や「シルヴィア」に比べると確かにこの2点の立ち位置は非常に不利なのは否めないが・・・。多少の粗さはあってもワイルドな味わいに満ちた「地鶏」の如き名演奏だけに、このまま消え去ってしまうのは忍びない。復活熱望である。
 
さて次回は「裏三羽烏」の3人(3羽?)目。某名歌手の伴奏で辛うじて名を残しているフランスの指揮者が登場。さあ一体それは誰でしょう。