★猫丸しりいず第177回
 
◎オッフェンバック:パリの喜び(ロザンタール編)
◎J・シュトラウス:青きドナウ(デゾルミエール編)
 
ポール・シュトラウス指揮 ベルリン放送交響楽団
 (独DG 002894775349)
 
◎ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」~ハンガリー行進曲
 プロコフィエフ:「3つのオレンジへの恋」~行進曲 他
 
ポール・シュトラウス指揮 リエージュ管弦楽団
 (仏EMI CDM7691202 「マーチ名曲集」 /廃盤)

 
 「指揮者」は一般的に他の音楽家に比べても活動期間が長い。結果的にレコーディング・キャリアも長期に亘り、万遍なく・・・というケースが多くなる。
 
ところが、中にはそのキャリアの特定の時期に録音が集中し、しかもそれが名盤揃い・・という不思議なケースも存在する。今回はそんな指揮者の代表格、ポール・シュトラウスをご紹介。
 
彼はシカゴ出身で、ミトロプーロス時代のニューヨーク・フィルでアシスタントを務め、その後はヨーロッパを中心に活躍した人。1967年にセザール・フランクの出身地として知られるベルギーの都市リエージュのオケの指揮者に就任。このオケの実力、名声を一気に高める。私が高校生の時に聴いたのが、今回ご紹介のフランスEMI(パテ)音源の「マーチ集」。標記の2曲の他、「威風堂々第1番」「ラデツキー行進曲」「軍隊行進曲」等々のオーケストラ・マーチを集めたものだが、全然知らない指揮者とオケにも関わらず、その明快で素晴らしい演奏に私は一発で魅せられてしまった(中でも「威風堂々」はマリナー盤と双璧の名演で、この名盤が現状入手困難なのはクラシック音楽界にとって大損失と本気で思っている程だ)。
 
このコンビの録音が他にも無いか・・と探すと、リエージュゆかりのフランクの交響詩集や、ブラームスの「ハンガリー舞曲(全曲)」を発見。これがまたアッと驚く名演ばかり。特にフランクの「プシュケ」の超美演には大いに魅了された。しかし、この名コンビは1974~1976年という短い期間に上記を含むわずかな録音を残しただけに終わってしまった。
 
ところがそれからかなり経ってから、この指揮者は1958年を中心にフリッチャイ時代のベルリン放送響を指揮して、ドイツ・グラモフォンへ少なからぬ数の録音を残している事を知った。ご紹介のCDはレコード3枚からの編集だが、最初の「パリの喜び」を聴いて思わずウ~ンと唸ってしまった。この曲、個人的にはマゼール盤のようなフランスのオケによる軽く華やかな響きの演奏が好みなのだが、この演奏はドイツのオケらしい腰のすわった響きを生かしながら決して鈍重にならず、明快で活き活きしたとても楽しい演奏になっている。続く「青きドナウ」はヨハン・シュトラウスの名曲をバレエ用にロジェ・デゾルミエールが編曲した、「パリの喜び」と同様な発想の曲。これは曲そのものが貴重。そして最後に収められた序曲3曲、ベルリオーズの「海賊」、ドヴォルザークの「謝肉祭」、オーベールの「フラ・ディアヴォロ」も、皆全て生命力あふれる名演奏で、大いに満足出来る。
 
以上、振り返ってみると、このポール・シュトラウスという指揮者の録音レパートリーには「一貫性」と言うか、「脈絡」みたいなものがまるで感じられない。だが逆に言えば、そんな「脈絡の無い」オールラウンドなレパートリー全てでこれだけ高得点の成果を(録音年代の隔たりにも関わらず)残している・・という事は、この指揮者の有能ぶりを実証する何よりのあかしと言えるのではないだろうか。となると、これだけ有能な指揮者がそのキャリアのほんの一部において集中的にしか録音を残せなかった事は、残念としか言いようがない。しかもそれらのほとんどが現状入手困難なのは尚更遺憾。
 
このポール・シュトラウスの他、フランス・パテに1960~70年代にかけてピンポイント的に素晴らしい録音を残したマイナー(失礼)指揮者があと2人いる。私はこの3人の名匠を勝手に「フランス・パテ・裏三羽烏」と呼んで敬愛しているのだが、次回、次々回は残りの2人をご紹介。さあ、一体それは誰でしょうか・・・・