★猫丸しりいず第176回
 
◎プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」
 
エーリッヒ・ラインスドルフ指揮 ローマ歌劇場管弦楽団
 
  ニルソン、テバルディ(S) ビョルリンク(T) トッツィ(B)他
(海外BMG/RCA 09026626872 2枚組)
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子供の頃は、とにかく「楽典」が苦手だった。正直、「長調」と「短調」だけあれば良いじゃないか、なんで「ハ長調」とか「変ロ短調」とか面倒臭く分かれているのか、と恨めしく思っていたものである。
 
しかし、その後自分で音楽を聴いたり、弾いたり・・・という経験を長年積み重ねていく事で、ようやくそれぞれの調性には独自の「色」や「特徴」があり、その違いを作曲家はうまく使い分けているのだ・・という事がわかってきた。自分にとって、その一番のサンプルと思えるのがプッチーニの「トゥーランドット」。この曲、とにかく調性の巧みな使い分けによる鮮やかな心理描写が素晴らしいの一言。
 
ポイントは幾つかあるが、まず第一は「ヘンテコな調の多用」。この曲の有名なアリア、とにかく妙な調が多い。「お聞き下さい、王子様」は変ト長調、「泣くなリュー」と「氷のような姫君の心も」はその平行調の変ホ短調。いずれもフラット6つ!の読みづらく、鳴りづらい調。登場人物の苦悩や悲嘆が伝わるこもった響きのアリアが連なる中で、全く色合いの異なるノビノビとして輝かしい響きを持つ「誰も寝てはならぬ」はト長調。ドヴォルザークの「交響曲第8番」とかマーラーの「交響曲第4番」と同じ、あのメルヘンメルヘンした調で書かれている。この鮮やかなコントラストは絶妙の一言に尽きる。
 
お次は「この御殿の中で」の最後の部分で、トゥーランドットとカラフが「謎は3つ、死(生)は1つ!」と3回繰り返すところ。変ホ長調→嬰ヘ長調→変イ長調と、繰り返しながらどんどん高くなっていき、主役2人の「もう一歩も引けない!」という緊迫感がヒシヒシと伝わってくる。血管のキレそうな猛烈な昂揚感を伴うこの部分は、このオペラで私が最も好きなシーンである。
 
そしてもう一つ、「3つの謎解き」の」場面。この部分は一聴すると、一問ずつ同じ事を3回繰り返しているだけのように思える。しかし、よ~く聴くとわかるが、実は3回目だけ、その前の2回より半音高くなっているのである。「想定外の事態」の発生に動揺する姫、「これは勝てるかも!」と高揚するカラフ、そんな2人の心理の動きが見事に描かれる。オケや合唱の見事な使い方といい、「こだわり屋」プッチーニの総決算とも言うべきスゴイ作品だ。
 
周知のように、プッチーニはこの曲を独力で完成する事が出来ずに世を去り、今日主に演奏されるのはアルファーノにより補作されたものだ。
以前この「猫丸」でネタにした通り、私はアルファーノの補作の仕事ぶりは高く評価すべしと思っているし、世評ほど悪いものではないと感じているが(詳しくはこちらでhttp://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/902/)、それでもやっぱりこれ程の「こだわりおやじ」のプッチーニが自分のオペラ創作の総決算と言える作品をどのように終わらせたかったのか・・という点は知りたかった、という気持は捨て去れない。
 
さて、名盤ひしめく「トゥーランドット」ではあるが、その中で不滅の名盤と断言したいのが今回ご紹介の盤。指揮者や演出家に全てが牛耳られている感のある現在のオペラ界と異なり、「歌手こそ全て!」という古き良き時代の匂い漂う録音(歌手たちが皆、聴かせどころで「アタシの(俺の)歌をお聴き!!と言わんばかりの個人プレイを乱発するのが微笑ましい)。メインの4人を、まさにドリームキャストと呼びたい名歌手たちで固めた布陣も凄いが、脇役、なかんずく主役級に重要なピン・パン・ポンの3役人を演ずる芸達者なセレーニ、デ・パルマ、フラスカーティにも大拍手。でも何と言ってもカラフにビョルリンクを起用している事が、個人的には極めてポイント高い。
 
思えば、昔、ライナー指揮のヴェルディ「レクイエム」のレコードを聴いた時の事。「インジェミスコ」のまさに「絶唱」と形容したいテノールの名唱を聴いて「金縛り」級の感動を受けた私。その歌手が、ユッシ・ビョルリンクという、スウェーデン人でありながら「イタリア人よりイタリア的」と絶賛され、1960年に49歳の若さで心臓発作で亡くなってしまった名歌手・・という事を知ったのは随分あとの事だったが。この「トゥーランドット」は1959年の録音なので、「ヴェルレク」と並ぶ彼の最後の録音の一つとなる訳だ。
 
カラフ役は、あの「3大テノール」をはじめ様々な名テノールが演じているのだが、周囲が必死に止めるのも聞かず謎解きに挑んだ「無鉄砲な大馬鹿野郎」というカラフのキャラクターをこれほど「直球」で見事に描いた歌唱を私は他に知らない。ニルソンとの「スウェーデン・コンビ」で、全編手に汗握る歌の饗宴を聴かせてくれる。
前述の「謎は3つ、死(生)は1つ」の場面は、まさに「ここまでやりますか!」と言いたくなる程のド迫力!!。ラインスドルフのこれまた「直球」の指揮ぶりはあまり世評が高いとは言えないのだが、彼のビシッと締まった音楽造りは、この演奏をただの「名歌手たちの個人プレイの羅列」に陥る事から救っている、中々の名指揮と私は感じている。そして、50年以上前のモノとは思えないRCAの鮮烈な名録音! スコアを丹念に読み込んだ上で、「この部分はこう聴かせるんだ!」という、作り手の意志が明確に伝わってくる。
 
1926年初演という事は、「春の祭典」や「ヴォツェック」よりも後輩、まだ87歳という意外な「若さ」のこの名オペラ。絢爛豪華なイタリアオペラの最後を飾る作品。皆様ももう一度「耳を澄ませて」聴いてみては如何?

 

 

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