★猫丸しりいず第173回
 
◎コンヴァース:安物自動車一千万台
 
 ジョアン・ファレッタ指揮 バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団
 (NAXOS 8559116)
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「デトロイト市が財政破綻」というニュースが先日世界を駆け巡った。
 
かつては全米一の自動車工業都市として繁栄を謳歌したこの街。しかし、1970年代の日本車の台頭等で自動車産業は深刻な打撃を受け、その衰退が人口の流出や市街の空洞化、治安の悪化という悪循環に繋がった。そしてとうとう180億ドルという莫大な負債を抱えて破綻する事態に陥ってしまった。
 
私が子供の頃はまだ「アメリカの象徴的な都市の一つ」というポジションだったデトロイト(社会科の授業で愛知県の豊田市を「日本のデトロイト」と教わった記憶が今でも鮮明である)の、この体たらくは中々にショックだが、長期に亘る不況で生産拠点の海外移転が相次ぐ日本の都市にとって、決して「対岸の火事」では済まされない出来事でもある。
 
そんなデトロイトの栄光の時代を偲ばせる隠れ名曲が今回のテーマ。アメリカの作曲家、フレデリック・シェパード・コンヴァース(1871~1940)が1927年に作曲した「安物自動車一千万台」がその曲。作曲家に関しても、作品に関してもNAXOS盤のライナーノーツ位しか資料が無いのだが、この作曲家はミュンヘンに留学してラインベルガーに師事し、帰国後はボストンのニューイングランド音楽院で教鞭をとった・・・という人らしい。
 
曲の原題は「Flivver Ten Million」。オネゲルの「パシフィック231」の成功に触発された作品との事。自動車というノリモノを広く一般に普及させ、大量生産システムを確立し、自動車産業の急成長に欠かせない役割を果たした歴史的名車「T型フォード」がネタになっている曲である。ちなみに「Flivver 」とはT型フォードを指す、古いアメリカのスラングだそうで、ピッタリする和訳がムズカシイ。「安物」ではあんまりかな・・とも思うが「大衆車」ではスラングっぽくないし・・・。ちなみにフォードがベルトコンベアによる「流れ作業」システムを導入したのは、今からピッタリ100年前の1913年8月との事。そして、この「T型」は最終的には「1,000万台」どころか、約20年間に亘って1,500万台という驚異的な数が生産されたのだそうだ。
 
所要12分強のこの作品、実にわかりやすく楽しい曲だ。デトロイトの街に朝が来て、フォードの工場に労働者たちが出勤し、トンカチトンカチ車を作って、プシュ~~~「ハイ、一台出来ました~」という感じ。この曲とほぼ「同級生」の「工場モノ」の傑作、モソロフの「鉄工場」(1928年)が老朽化して油も切れかかった機械をムリヤリ動かしてます!という感じの野卑な迫力を炸裂させているのと対照的に、このコンヴァースの作品は何だか「牧歌的」でさえある。コンヴァースは、以前この「猫丸」で「乳母車の冒険」をご紹介した作曲家カーペンター(詳しくはコチラでhttp://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/999/)と同世代。この二人の作品の共通点は、間違いなく「アメリカ的」ではあるのだが、後輩のコープランドやバーンスタインのような低湿度のパリッと乾いた感じが薄く、どことなくヨーロッパ的な「しっとり感」が漂う独特の魅力を放っているところ。後に隆盛するアメリカ産映画音楽のルーツを感じさせるのも興味深い。
 
それにしても、特定の大物作曲家にばかりスポットライトが当たっていた「アメリカのクラシック音楽」の受容の状況を打破し、実は知られざる名作が山ほどあったという事実を提示してくれたNAXOSの「AMERICAN CLASSICS」のシリーズは、まさに「偉業」の一言だ。このシリーズをはじめ、NAXOSに多くの録音を行なっているファレッタ&バッファロー・フィルの演奏も素晴らしい。一部の有名曲ばかり露出度の高いアメリカの作品だが、実は「ソ連系交響曲」並みに奥深くマニア心をくすぐるのがアメリカ音楽。貴方も是非アメリカ音楽の迷宮へお越し下され・・・・

 

 

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