★猫丸しりいず第171回
 
◎深井史郎:パロディ的な四楽章、ジャワの唄声、創造
 
 ドミトリ・ヤブロンスキー指揮 ロシア・フィルハーモニー管弦楽団
(NAXOS 8557688J)
 
◎田中正史:「妖怪人間ベム」のテーマ ハニー・ナイツ(歌)
 
(国内ユニバーサル TOCT9544 ※「妖怪人間ベム ミュージック・クリップ」/廃盤)
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今年は日本でテレビ放送が開始されて60周年なのだそうだ。
 
NHKの大河ドラマのテーマ曲を筆頭に、クラシック畑の作曲家たちの手による「テレビ番組のための名曲」は非常に多い。聴いていた当時は全く知らずに、随分経ってから「エッ、この曲はあの人の作品だったのか」と驚かされた事例は数えきれないほどある。
 
その中でも自分にとって「驚き度」が最高だったのが、日本テレビが早朝の放送開始時に鳩のアニメーションと一緒に流していた曲「鳩の休日」。素朴だが印象的なアニメーションと、哀愁を帯びたその美しいメロディは、当時小学生だった私に強烈なインパクトを与え、わざわざこれを聴くために朝6時前に早起きした事もあった程である(つくづく妙な子供であった・・)。この名作の作曲者が深井史郎(1907~1959)である事を知った時は本当に驚いた。
 
深井はラヴェルやストラヴィンスキーに多大な影響を受け、モダンで洒脱な作品をいろいろ遺した人。ファリャ、ストラヴィンスキー、ラヴェル、ルーセルに対するオマージュと言える代表作「パロディ的な四楽章」をはじめ、「アジアン・ボレロ」と形容したい「ジャワの唄声」、そして多数の映画、放送のための作品が知られる。そういう彼の仕事の「文脈」からすれば、テレビの音楽に携わった事はそう驚く事では無いが、それにしてもあの「鳩の休日」が深井の「裏代表作」だったとは。ちなみにこの「鳩の休日」には、実は結構愛好者が多いらしく、動画投稿サイトにも多数画像がアップされているのも驚きだった。
 
深井の代表作がこれまで入手困難だった「ジャワの唄声」も含めて聴ける便利なNAXOS盤。そのライナーノーツ(これだけに金払っても良い!と思える程の片山杜秀さんの力作!)を読んでいたら、「深井の弟子と言える作曲家」として、これまた意外なヒトの名前が挙がっていて、またまたビックリ。その人の名は田中正史(1928~2010)。
 
多くの印象的な名曲を遺しながら、小林亜星や渡辺岳夫のように語られる事が皆無に近い不憫な作曲家。ちなみに代表作は「黄金バット」「サスケの歌」「黄桜のCMソング(あの小島功のカッパのアニメで有名な・・)」等々。これらの曲をご存じの方ならお分かりと思うが、実にスピード感溢れるカッコイイ作品が多い。そして彼の・・と言うより、あらゆる日本のアニメソングの中でも最高傑作の一つでは無いか、と思えるのが「妖怪人間ベム」のオープニング・テーマ。実際、「オトナになって聴き直して、この曲はスゴイ!と再認識したアニソンは?」という問いかけをすると、(私の周辺で)冨田勲の「リボンの騎士」と共に、この「ベム」を挙げる人が多かった。
 
湿気の多い日本的、東洋的な妖怪アニソンの大傑作「ゲゲゲの鬼太郎(いずみたく作曲)」と対極的に、カラッと乾ききったジャズの響きをまとった「ベム」のテーマ。もう40年以上も前の作品(1968年)にも関わらず未だに全く古臭さが無く、そのベースやビッグバンドの響きを聴くと、今でもワクワクしてしまう。ちなみに田中正史はテレビの音楽を中心に活躍したが、実はオペラやバレエといった「舞台系クラシック作品」も遺しているそうで個人的には誠に興味津々なのだが、実際に耳に出来る機会はまず無さそうなのは残念だ。
 
そして言うまでも無く、この「妖怪人間ベム」という作品自体が理不尽な「差別」「偏見」という非常に難しいテーマに果敢に立ち向かった大傑作。
大人になって見直して、こんなに感銘を受けたアニメ作品は私には無かった。まだまだ世界中に偏見、差別が渦巻く現代にこそもう一度評価されるべき重要作。 
それにしても、当時の子供たちの間で大流行した、あの「早く人間になりたい!」というセリフ。その一言に込められた悲痛な「思い」を感じ取るには、その頃の私はまだ幼すぎたようだ。