★猫丸しりいず第169回
 
◎シェーンベルク:ワルシャワの生き残り
 
 ハンス・ツェンダー指揮 ザールブリュッケン放送交響楽団 
(独CPO 999481-2)
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世界遺産に指定されているポーランドの首都ワルシャワ。
 
ウィーン、ブダペスト、プラハといった他の中欧の人気都市に比べると全く目立たない存在であるが、旧市街を中心とした「歴史地区」は中々見応えがある。そして、ここを訪れた人々は、この街が実は「オリジナル」では無く「復元」されたものと聞くと皆驚くだろう。
いや、復元された街という事実を知った上で訪れても、何ら「違和感」みたいなものを感じさせないのはまさに驚嘆の一言だ。
 
第2次大戦の際のドイツの侵略や爆撃によって灰燼に帰したこの街。戦後復興に立ち上がった人々は、幸いにも残った図面や写真、住人の記憶等々の資料を総動員し、何とこの歴史地区を(有名な言い回しを借用すると)「壁の割れ目に至るまで」忠実に復元してしまったのだと言う。建物一軒では無い。街全体をである。この執念と言うか、「思い」の強さはロシアやドイツに挟まれ、繰り返し侵略を受けてきたポーランドの人々の、(政治的な意味では無い純粋な意味合いでの)愛国心、郷土愛から生まれたものなのだろう。とにかく脱帽モノである。
 
第2次大戦のワルシャワ・・と言えば、切っても切れない名作が「ワルシャワの生き残り」。
この曲は私が初めて耳にしたシェーンベルクの作品であり、また「ヴォツェック」と共に初めて聴いた12音技法の作品でもある。中学生の時だったけど、その衝撃は誠に大きく、音楽を聴いて「震撼」させられるという体験を初めて得た忘れがたい曲。
 
この曲の素材は、ワルシャワのゲットーから幸運にも生還したユダヤ人の証言。ある日ドイツ兵によって集合させられたユダヤ人たちは、ある者は銃で撲殺され、残った者はガス室に送られ殺害される。ガス室に送られるユダヤ人たちから湧き起こる「聞け!イスラエルよ」の合唱・・・。戦後の1947年にアメリカで作曲された8分弱の短い曲だが、とにかく「人間が、同じ人間に対してどんな残忍な事をしてきたのか」という恐ろしい現実を、否応なく眼前に突き付けてくる傑作にして問題作だ。しかしそれから70年近くたっても、人種、宗教、国籍、民族、文化の違いから生ずる憎悪や理不尽な殺戮は地球上に溢れている。残念だが人間はつくづく学習をしないイキモノのようだ。
 
「ワルシャワの生き残り」にはブーレーズやアバドなど、もっと入手容易な録音もあるのだが、私にとってはこの曲はツェンダー(1936~)でキマリである。現代ドイツを代表する作曲家にして指揮者の彼。私が中学生の時にNHK響に客演し、何とベートーヴェンの7番(だったと記憶している)がメインのコンサートの前半に、ラッヘンマンの「響影」を持ってくる・・という大胆すぎるプログラムで「ゲンダイオンガク」に免疫(笑)の無かった私をのけぞらせた忘れがたい名匠。彼がザールブリュッケン放送響を振った録音がCPOからまとめて出た時、そのラインナップの中に「ワルシャワの生き残り」があるのを見つけ、迷わず入手。これが実に凄かった。「潤い」が全く無い、ギスギスと乾ききった音で容赦無くユダヤ人たちを追いつめていくような苛烈なオケの響き、ユダヤ人たちに号令をかけるドイツ兵の「半狂乱」ぶりをこれでもか!と強調する語り手、それらに必死に抗うような合唱・・・。そしてその「魂の叫び」のような合唱を、無情にもバッサリと断ち切るオーケストラの一撃!。全てが強烈で、思わず何度も繰り返し聴いてしまった程だ。
 
そして、この演奏が「加害者側」であるドイツの演奏家たちによって成されている事も、誠に印象深い。
 
非常に重たい内容の作品であり、気楽に聞き流せるという類の曲では無い。流行りの「癒し」とは対極とも言える内容である。しかし、大戦から70年近くが経過し、その惨禍を実際に知る人が今後どんどん減っていく今だからこそ尚聴かれなければならない重要作と私は確信している。それにしても、地球上の人類達がお互いの文化や宗教、民族等を尊重し、真に共存共栄出来る世界というのはやっぱりこれからも実現出来ないのだろうか・・・・・・。