★猫丸しりいず第164回
 
◎マンチネッリ:歌劇「クレオパトラ」序曲
 ブラック:「コスチューム・コメディ」への序曲
 ロッシーニ:歌劇「泥棒かささぎ」「絹の梯子」「ブルスキーノ氏」序曲 他
 
 ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団
(豪DECCA ELOQUENCE 4803899 2枚組 ※「ロマンティック序曲集 2」)
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「ピアノの神童」「ヴァイオリンの神童」は良く聞くが、「指揮の神童」ってあまり聞かない。
 
考えてみれば自分の楽器で演奏出来る器楽奏者と違って、指揮者は自分一人で指揮棒振り回していたって何の音楽も奏でる事は出来ない。指揮者が自分の音楽を表現するにはオーケストラという媒体が必要である。
 
しかし、メンデルスゾーンのような大富豪の息子でもなければ自分のオーケストラを持てる筈も無く、余程のチャンスやコネクションが無いと、実際にオケを指揮して自分の「神童」ぶりをアピールする事も出来ない。「指揮の神童」は中々ハードルが高い。
 
そんなキビシイ環境にも関わらず、「指揮の神童」は矢張り存在した。10歳前後でアメリカのメジャー・オケの数々を指揮したマゼールを筆頭に、何と7歳!で「悲愴交響曲」を振ったというフィストゥラーリ等々・・。そして今回の主役、ピエロ(ピエリーノ)・ガンバもその一人である。このガンバという指揮者、私は以前からカッチェンとの共演盤でお馴染みの人だったのだが、彼の録音がDECCAを中心に1950年代半ばから1960年代半ばに集中している事から、最初私は彼の事をカラヤン当たりの世代の人と勝手に思い込んでいたのである。
 
が、ある時真相を知ってビックリ。彼は何と1936年の生まれ。つまりメータやデュトワと同い年なのである。と言う事は・・・。彼の名盤として知られるロッシーニの序曲集は1955年の録音。つまり彼は「未成年」でメジャーレーベルから商業録音を出した・・という破格な人だったわけなのだ。20歳代後半でベルリン・フィルを振って数々の名録音を残したマゼールも充分怪物ではあるが、サスガに10代というのは「反則」級だ。そして彼はレコーディング・アーティストとしての経歴が30歳代に入るとパッタリ途切れてしまう・・・という他に類例を見かけない特異な存在で、CD時代に入るとその音源を入手する事が極めて難しくなり、すっかり忘却されてしまった。
 
ところが最近、マニア狂喜乱舞の音盤を次々繰り出す豪ELOQUENCEからガンバのDECCA録音がまとめて出たのには度肝を抜かれた。しかも有名なロッシーニのみならず、マンチネッリやスタンリー・ブラックの珍曲まで網羅した大満足の内容である。ライナーに載っているオリジナルLPのジャケ写を見ると、そこには「青年」というより「少年」という形容がピッタリのガンバの指揮姿が・・。それを見ると「オイオイ、こんな坊や(失礼)がツワモノ揃いのロンドン響を相手にちゃんとした演奏出来るんかい」と不安を掻き立てられる程なのであるが、実際に聴いてみるとそれは驚きに変わる。
 
「ウィリアム・テル序曲」一つをとってみても、熟達の指揮者でさえ容易いとは言いがたいこの難曲を何と生き生き演奏している事だろう、と感心させられるのだが、2枚分全て聴き通すと、この演奏が20歳前後の若者の指揮によるものとは到底思えない。こんな凄い才能を持った人が30歳過ぎてから表舞台からパッタリ消えてしまったのは本当に摩訶不思議。
それにしても、この貴重な音源を復活させてくれた豪ELOQUENCEには毎度の事ながらアタマが下がる。今度はDECCAの「フェイズ4」のシリーズで1970年前後に色々と録音を遺したが、今日全くと言って良いほど音源が入手出来なくなってしまった黒人指揮者、ヘンリー・ルイスの録音を是非是非まとめて復活させてほしい・・と個人的に熱望している。
 
ところで、ベテランのクラシック・ファンの方からは「オイ、神童指揮者と言えば他にもいるじゃないか。フランス人のアノ指揮者は一体どうしたんだ!」と突っ込みが入りそうだが、ご心配?なく、次回はその「もう1人の神童」が指揮した盤をご紹介!!