★猫丸しりいず第160回
 
◎ビゼー:劇音楽「アルルの女」(原典版/抜粋)
 
 クリストファー・ホグウッド指揮 バーゼル室内管弦楽団
(国内ARTENOVA BVCE38081)
 
◎ビゼー:「アルルの女」第1組曲・第2組曲、序曲「祖国」他
 
 ジョルジュ・プレートル指揮 バンベルク交響楽団
(国内RCA SICC1370~1)
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「校内放送で流れていた音楽」は妙に記憶に残るもの。
 
私が40年前に通っていた西戸山小学校では、登校時間に「ペールギュントの朝」が流れていた。これなんかは実に「ありがち」な選曲と言えるが、昼の給食の時間に流れていたのが、なぜか「アルルの女のメヌエット」。お陰で今でも私はこのフルートのメロディを聴くと、給食当番が割烹着を来ておかずを配っていた給食の時の情景が脳裏に甦るほどである。
 
 その後クラシックを本格的に聴き始めて、この曲が「カルメン」と同じ作曲家の「アルルの女」という曲である事を知るのだが、更にその後、この「メヌエット」が実はもともとは「アルルの女」とは別の作品であるという事実を知った時は「エッ!」と驚かざるを得なかった。
 
もともと劇音楽として書かれた曲を作曲者自身が手直ししたのが「第1組曲」、作曲者の死後、友人の作曲家ギローがまとめたのが「第2組曲」だが、有名な「メヌエット」はギローがビゼーの歌劇「美しいパースの娘」から転用したもの・・という経緯はクラシック好きの諸兄なら先刻ご承知の事と思う。この事を地下のビゼーがどう思っているかはわからないが、私はこの転用は大ヒットだ!と思っている。「ファランドール」の前という配置も絶妙で、この名作を埋没させる事無く世の中に出してくれた功績は、「禿山の一夜」に於けるリムスキー=コルサコフの仕事に比肩し得る偉業とさえ思う。
 
「組曲」に関しては無数にある「アルルの女」の録音だが、もともとの「劇音楽ヴァージョン」の音源は非常に少ない。フル・オーケストラによる「組曲」と異なり、劇場内という限られたスペースで演奏するために、オリジナル版は30名程の楽団とピアノ・・という小ぢんまりとした編成である。聴いてみるとこれが非常にスリムですっきりとした響きで、組曲の代表的名演として知られる「俺たちゃ毎日バター喰ってるぜ!」と言わんばかりのコッテリ型名盤クリュイタンスとは全く異なる良い味を出しているのだ。また、聴きなれた組曲に比べ、あまり音楽が出しゃばってはイケナイ劇音楽の制約ゆえか、オリジナルの曲は結構断片的。この素材を用いて演奏会用の組曲に直す際にビゼーやギローが音楽の構成の面でも様々な工夫をしている事が分かるのも興味深い。尚、このホグウッド盤は抜粋版。合唱も入ったオリジナル全曲版はプラッソン盤(EMI)がある。
 
無数にある「組曲」の音盤の中で、「隠れ名盤」としておススメなのがプレートル盤。高校生の時にプーランクの作品やサンサーンスの交響曲第3番(EMIへの旧録音)のレコードを聴いて以来、敬愛しているこの指揮者。最近の急激な再評価には「遅いよ!」と叫びたくなる位だが、とにかくこの人、どんな楽団を振っても躍動感溢れる「プレートルの音楽」になってしまうのが凄い。しかも一見ただの「爆演おやじ」かと思わせておいて、実は非常に計算され、コントロールされ、しかも熱狂的な演奏をやってのけるという凄腕の持ち主でもある。
 
この録音、中でも第2組曲の「メヌエット」「ファランドール」が圧倒的に素晴らしい。バンベルク響の暖かい響きを最高に生かした「メヌエット」、絶妙な強弱のコントラストを付けながら猛烈なエンディングにもっていく「ファランドール」には、改めてこの名指揮者の底力を見せつけられる。「演奏」が「曲」を上回ってしまった・・とさえ感じられる「祖国」をはじめ、他の曲目もプレートルの歯切れ良い指揮と、オケの「木造」という感じの古雅な響きの組み合わせが絶妙な名演揃いで、ビゼーの世界を堪能出来る。「隠れ」にしておくのが全く惜しいおススメ盤!!