★猫丸しりいず第156回
 
◎マデトヤ:オコン・フオコ
 
 アルヴォ・ヴォルメル指揮 オウル交響楽団 他
(フィンランドALBA ABCD184)
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日本の生んだ初の国際的スターと言えば、それは俳優の早川雪洲であろう。1910年代というサイレント映画期にハリウッドでスターダムにのし上がり、世界的にも人気を博したのだから、これは凄い。しかも彼の名はクラシック音楽作品にも登場している。
 
ラヴェルの「子供と魔法」の中で、中国茶碗が歌う歌詞に「セッシュー・ハヤカワ」というフレーズが出てくるのをご存じの方もいらっしゃるだろう。ただ、彼の名は「なんとなく中国風」という意味無しフレーズの連なる中で一つの「記号」として出てくるにすぎない(台本を書いたコレット女史のアタマの片隅に東洋人の名前として引っかかっていたのだろうか)。19世紀末から20世紀初頭にかけて、欧州ではやたらと日本をネタにした作品が生まれたが、実際のところ多くのヨーロッパの人々には、中国と日本の区別もキチンとついていなかったのは、まあ仕方無いのかもしれない。
 
この連載で度々とり上げている「北欧の隠れ名曲」。今回は「子供と魔法」と同時期の1927年にフィンランドのレーヴィ・マデトヤ(1887~1947)が作曲した「日本モノ」の怪作にして名作、バレエ・パントマイム 「オコン・フオコ」をご紹介。この曲に関しては、オッコ・カムの指揮した「組曲」を大分前から愛聴していて、その不思議な雰囲気と奇怪なタイトルに大いに魅かれていたのだが、数年前に初録音の全曲盤が出る・・・というので、興味津々で入手したのがこのヴォルメル指揮の盤。
 
入手してビックリ「何じゃ! このジャケットは!」。怪しさ炸裂の浮世絵ジャケ。さては・・・と調べてみると、何とこの曲、日本を素材とした作品であった。人形使いオコン・フオコと、彼の作った人形ウメガワが主な登場人物(?)。全曲で80分近い大作だが、その音楽にはプッチーニ、サリヴァン、ジョーンズの作品のような「無理矢理オリエンタル」感は全然無く、むしろこの作曲家らしい透明感が目立つ。ただ、彼の作品には独特の荘厳さ、雄大さもあり、それがどことなく「ニッポン風な味わい」をもたらすケースもあるのだ。例えば代表作の一つ「オストロボスニアの人々」の「囚人の歌」なんかはまるで昔のNHK大河ドラマのテーマ曲のようである。
 
この「オコン・フオコ」の中にも、何と「ハラキリ」というタイトルの曲があって、「出た~」と思わずニヤッとしてしまうのだが、実際に聴いてみると「浅野内匠頭切腹のシーン」とかのバックに流しても結構イケるんでは・・・という感じの厳かな響きの曲。そんな彼の作風もプラスに働き、この曲、ただの「怪作」と片付けるのが惜しい「隠れ傑作」と感じさせる作品となっている。北欧音楽好きの方には、この浮世絵ジャケにひるむ事無く是非お聴き頂きたいおススメ作。他にもマデトヤには3曲の交響曲や様々な管弦楽曲等、優れた作品が多々ある。ちなみにこの盤で名演を聴かせるオケは、作曲者の生まれ故郷でフィンランド中部の街、オウルの楽団。
 
それにしても、何をキッカケにマデトヤが「ニッポンモノ」に手を染めたのか・・・という経緯がライナーを読んでも載っていないのは残念。「オコン・フオコ」は「おかめひょっとこ」がルーツという珍説も聞いた事があるが真偽の程は不明。人形の名「ウメガワ」は「梅川」かなあ・・?。「子供と魔法」のコレット女史のようにどこかで聞きかじった名前なのか、はたまた知り合いに梅川さんがいたのか・・。謎は深まるばかり。