★猫丸しりいず第154回
 
◎松村禎三:「EXPO’70のための音楽」~祖霊祈祷
 
石丸寛指揮 東京交響楽団
(国内タワーレコード/ビクター NCS589~590)
 
◎レブエルタス:センセマヤ
 
エンリケ・バリオス指揮 アグアスカリエンテス交響楽団
(NAXOS 8555917)

 
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私が小学一年生の年に開催された世紀の大イヴェント「大阪万博」。
 
日本人のレジャーのあり方を変えた・・と言っても過言で無いこの博覧会、今では当たり前の「家族旅行」や「団体旅行」の原点とも言える、絶大なインパクトを持ったイヴェントであったのだが、同時に日本のクラシック音楽界にとっても画期的な出来事であった。何しろ、この半年の万博の期間中にセル、カラヤン、バーンスタインの3巨頭を筆頭に多くの演奏家が来日公演を行ない(この時、バルビローリも初来日を果たす予定だったのが、直前の彼の死去で「幻」となってしまった事は今やほぼ忘れ去られた感もある)、国内外の作曲家が作品を上演したり(シュトックハウゼン等々、これも今思えばとんでもないメンバー)・・といった調子で、まさに「国家の威信をかけたイヴェント」ならではの「饗宴」が続いたのだった。
ただ、私自身は万博には出かけていないので、これらの事は「歴史の一コマ」として知るだけなのは残念だが・・・
 
万博から数年経た中学生の時、近所の友人宅に大阪万博のための音楽のレコードがあるのを見つけ、興味本位で聴いてみた。その中で、とてつもない衝撃を与えられた大怪作&名作が「祖霊祈祷」。この曲は「原始の祭りの場」を表現したテーマ館のために作曲されたもの。打楽器群やチェンバロの立てる奇怪な響き、混声合唱による「ウ・ア・エ、ウ・ア・エ・・・・・・・」というおどろおどろしい呪文のようなフレーズ。松村の師匠である伊福部昭の怪獣映画の音楽をもっと濃密に、暑苦しくしたような凄まじい作品である。
 
大音量で聴いているのを普通の?人に見られたら、かなり恥ずかしい・・と思えるこの名曲、CD化されるとは全然期待していなかったのだが、タワーレコードの企画盤で目出度く復活し、容易に聴けるようになった(ただ、残念な事に現在は既に廃盤らしい)。このアルバム、これまたインパクト絶大の「阿知女(アチメ)」や、不朽の名作「管弦楽のための前奏曲」等、カップリングも最高で、おススメである。ちなみにこの「祖霊祈祷」、世界中から集められた神像や仮面が多数立ち並んだ空間で流れていたそうで、さぞやピッタリフィットしていただろうと想像出来るのだが、実際に大阪万博に行かれた方で記憶されてる方はいらっしゃるのだろうか?

ところで、西洋クラシック音楽作品で「祖霊祈祷」に比肩しうる「呪術的&暑苦し系」の怪作&名曲と言えば、それは「センセマヤ」であろう。
この曲を書いたレブエルタス(1899~1940)はチャベスやポンセと共にメキシコを代表する作曲家だが、その超個性的な作品群は聴き始めると結構ハマってしまう。ブッ飛んだ作品を書き、酒浸りで若死に・・・というと何だかムソルグスキーを連想してしまうが・・・。7拍子の特異なリズムで進むこの大怪作、咆哮する金管、炸裂する打楽器・・なんて陳腐なコトバでは表現困難な唯一無二の奇怪な音響世界が展開される。無数にあるクラシック音楽作品の中で、一聴たちまち「俺はこの曲を待っていた!」と叫びたくなった数少ない作品の一つだ。
 
本家メキシコのオケを起用したご紹介のNAXOS盤をはじめ、バティス御大指揮のASV盤など、この曲には意外なほど録音がある。「センセマヤ」の他、蒸し暑さ全開の「マヤの夜」も面白い。あまりに際立った個性ゆえ、恐らく好き嫌いはハッキリ分かれてしまうであろうレブエルタスだが、欧州のクラシック音楽とは全く違った色彩を放つ彼のユニークな作品はもっと知られても良い存在だ。
 
それにしても、一つの大イヴェントのために国中の才能が結集した大阪万博から40年超、すっかり元気が無くなり「縮小」一途の今の日本があの頃の輝きを取り戻すのはもうムリなのだろうか・・・。