★猫丸しりいず第153回
 
◎ヨゼフ・シュトラウス:天体の音楽
 
 マントヴァーニ・オーケストラ
(国内DECCA UCCD7148 「オペレッタ・メモリーズ」)
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「自分の意志に反した天才」
 
そんな妙な人がいるのだろうか?
この呼び名がピッタリな大作曲家。それがワルツ王ヨハンの弟、ヨゼフ・シュトラウス(1827~1870)。
 
この人はもともと音楽家になるつもりは無く、工業学校を出て技師として働いていた。しかし、思わぬ転機が訪れる。あまりの大人気で超多忙になった兄のヨハンが過労で倒れてしまい、急遽兄の代理として指揮台に上がる事になってしまったのだ。エンジニアが突然指揮者・・・。恐らく最初は大変だったと思われる。この時ヨゼフは既に27歳。本人は音楽の道に本格的に転身しようとは思っていなかったようなのだが、「天才」だったのが運の尽き(?)。アッと言う間に兄にも劣らぬ人気者になり、43歳の若さで他界するまでのわずか17年の間に300曲近い作品を遺した。これはスゴイ。兄の陰に隠れがちなヨゼフだが、
これはまさしく天才の仕事ぶりである(兄のヨハンも、ヨゼフの事を「兄弟でアイツが一番才能がある」と称賛していたそうだ)。
 
彼は外向的な兄に比べると派手な事が苦手で、孤独を愛するタイプだったらしい。そんな彼がひょんな事から人気作曲家になってしまう・・・。それは彼にとって本当に「幸せ」な事だったのだろうか。あまり体が強くなく、繊細な神経の持ち主だった彼にとって、多忙な人気作曲家という地位は荷が重すぎたようで、過労のあまり何度かノイローゼになり、最期も旅行先のワルシャワで倒れて頭を強打し、意識の戻らぬままウィーンで亡くなる・・という悲惨なもの。
 
ヨゼフの作品は、ちょっと「ヒネリ」があったり、華やかなのにどこか寂しげな翳があったりと、兄の作品とは違った味わいがある。もし「ニューイヤーコンサート」が兄ヨハンの作品ばかりだったとしたら、同じ味の料理を延々食べ続けるような感じになってしまうのだろうが、そこに味わいの異なるヨゼフの作品が入る事でうまくバランスが取れているように思われる。だから我々後世の音楽好きにとっては、ヨゼフが音楽家に転身した事は実にラッキーな事である筈なのだが、本人にしてみれば、「なまじ天才だったばっかりに」色々な点で追いつめられるような人生になってしまった訳だ。誠に人生は不思議なもの。そんな彼の早すぎた晩年の傑作のタイトルが「上機嫌」というのは何だか泣けてくるではないか。
ちなみに冒頭の「自分の意志に反した・・」は、シュトラウス・ファミリーの研究家フランツ・マイラー氏がヨゼフを評したコトバだそうだが、実に名言である。
 
ヨゼフの代表作の一つが医学生たちの舞踏会のために作曲されたと言うワルツ「天体の音楽」。彼らしい繊細なファンタジーに溢れたこの傑作、ウィーンの演奏家による定番の名演をご紹介しても良かったのだが、今回はあえて「ムード・ミュージックの王様」マントヴァーニ盤。この人は以前この「猫丸」でネタにしたカッチェンと共演のガーシュウィンとか、マリオ・デル・モナコとの共演盤もあるが、そんな彼のクラシック系のアルバムの中でも最高傑作と思われるのが、この「オペレッタ・メモリーズ」である。
 
この中に収められた「天体の音楽」。無論オリジナル版での演奏ではなく、徹底的にマントヴァーニ流にアレンジされたもので、演奏時間も3分弱と短い。しかし、私はこの演奏を聴いて思わず唸ってしまった。華麗でありながらシットリとした響きのストリングスが、原曲から全く新たな味わいを引き出しており、マントヴァーニという人の「音楽家」としての底力を再認識してしまった程だ。ヨゼフがこの演奏を聴いたら「オレの曲、こんなにキラキラしてないよ~」と照れ笑いを浮かべてしまいそうではあるが・・・。
この名盤、現在は生産中止のようなのが残念至極。他にもスタンリー・ブラック、フランク・プゥルセル等々のムードミュージック系の人々の携わったクラシック音楽アルバムは面白いものが結構多いだけに、それらが再び日の目を見る事を熱望している。